大判例

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東京高等裁判所 平成9年(う)773号 判決

被告人らが使用したブッシュナイフ及びサバイバルナイフは,それぞれ全長が約38センチで,重量感もあり(前者が402グラム,後者が736グラム),各刃体も,長さ約25センチ,幅が最大で約4センチで,先端の尖った鋭利な刃が付いており,人体を刺し,あるいは切るなどして相当な傷を負わせることが容易な凶器であり,被告人らもこれを十分認識していたと認められる。

被害者には全身で30か所以上の創傷があり,しかも,頭部に2か所,左右下肢の大腿部に6か所,同膝部に3か所,左上肢の上腕内側に1か所の創傷があって,それらの部位は,胸,腹と等しい身体の枢要部とはいえないとしてもそれに近い部位や,多量の出血をもたらす危険性のある部位も含まれており,その創傷の状況からは,凶器のナイフで相当の力を込めて刺しあるいは切りつけたことを推認でき,被告人らの強い加害意志が窺われる。

(中略)

以上の事由によれば,被害者を攻撃することを共謀したC及び被告人らは,多量の出血により被害者が死ぬかもしれないことを認識し,それでもかまわないとの未必の故意を有していたと認めるのが相当である。

2 正当防衛ないし過剰防衛の成否について

(1) 被告人Aは,いきなり殴ったり,ナイフを示したりしてきた被害者の態度に憤慨し,Cに電話して,「あの男がナイフを出して気を付けろと脅してきた。何か喧嘩の道具はないか。喧嘩の道具を持ってきてくれよ。」と喧嘩の加勢を頼み,Cは,その頼みを入れて,自らはブッシュナイフを持ち,さらに被告人Bを起こして,同人に包丁を持たせて,タクシーで池袋に赴き,3人が合流しているのであるが,この時点で,応援を頼んだ被告人Aはもちろん,応援のため駆けつけたC及び被告人Bも,被害者に被告人Aを殴った理由を問い質すことをしたとしても,被害者は,それまでの態度からして事を平穏に終わらせることは少なく,凶器で攻撃を仕掛けてくる可能性が十分あると予想したと考えられ,その上で,そうした攻撃に対しては,3人が揃い凶器も準備して態勢が整っていることから,こちらも仕返し及び懲らしめのため被害者を攻撃する旨の意思を持ったものと推認できる。

(中略)

(2) 被害者は,被告人ら3名と出会う前から戦闘的であり,本件現場で被告人ら3名を見つけると挑むような態度を示し,知人に止められ一旦はタクシーで去ったが,まもなく戻って来て,今度はナイフを出して,被告人Aに「お前来い。」と言いながら向かって来て,再度止められて向きを変えて歩き出したものの,携帯電話で話を交わすと反転して,ナイフを持って攻撃を仕掛けてきているのであって,このような被害者の行動を目の前にして,被告人ら3名は,被告人Aを殴った理由を問い質すなど話し合いをすることは到底無理であると判断する一方,被害者は執念深く,攻撃をあきらめて引き上げるとはたやすく考えられず,訳の分からない理不尽な行動に出るおそれがあるものとして警戒心を抱き,出会う前に予想していたとおりナイフでもって攻撃をしてくる可能性があるとの認識を持ちつつ,攻撃してくれば,こちらも攻撃するとの意思を持ち続けたものと推認できる。

Cが,来たり戻ったりする被害者に対し,「明日話をしよう。」,あるいは「お前本気か。俺はこんなに仲間がいるのに。」などと,喧嘩を回避するための言葉を発したものの,被害者が切り付けてきてCの手を切ったことから,Cは「やっつけてやろう。」などと叫び,続いて,Cはブッシュナイフを,被告人Bは包丁をそれぞれ手にして,被害者に切り掛かっていって切り合いをし,被告人Aは被害者の背後から殴り掛かるなどしたが,やがて被告人Aが被害者を路上に押し倒し,その後は,横たわった被害者に対し,Cが下肢を中心に突き刺しあるいは切り付け,被告人Bが被害者のナイフを落として,それを取って腕や足に切り付けあるいは突き刺し,被告人Aが顔等を殴るなどしているのであって,こうしたCが手を切られて以後の被告人ら3名の攻撃は,Cの攻撃の合図ですかさず被害者を攻撃し,切り合いをしているときも被害者と対等以上であり,特に被害者を倒してからは,有効な攻撃も更に防御もできなくなった被害者に対し,優勢な状態で意のままに,未必の殺意をもって一方的に執拗な攻撃を加えたもので,短時間後に死亡させるほどの激しいものであり,こうした被告人ら3名の被害者に対する攻撃の状況は,その場でにわかに生じた意思によるものではなく,あらかじめ抱かれていた攻撃の意思によるものであるとみられる。

なお,原判決は,被害者と最初に対峙した際,被告人らは自分達の方から攻撃する気勢を示さず,被害者がナイフを取り出して,被告人Aに「お前来い,」と挑んできた際も,Cと被告人Bは,被害者の攻撃するような態度はなく,持参の刃物もズボンのポケットにしまったままであったことを,被告人らの積極的加害意思を否定する根拠とする。しかし,Cを含め被告人らは,自分達から進んで先制的に喧嘩を仕掛け攻撃するまでの意思はなかったのであるから,被告人らが被害者を挑発しかねない挑戦的態度を取らなかったからといって,被害者が攻撃をしてきたときにはその機に応じ攻撃するとの意思の存在まで,否定されるものではない。また,原判決は,Cが制止,説得しており,できれば喧嘩抗争という事態を回避しようと努めていたとみられることを,被告人らの積極的加害意思を否定する根拠とする。しかし,Cを含め被告人らとしても,こちらから先制的に喧嘩を仕掛けることはなく,被害者から攻撃してきたときは攻撃しようとの意思であったので,粗暴な振る舞いをする人物であると予想していても,被害者本人をよく知らないことから,なお被害者の出方を見極めようとの意識が働き,さらには,被害者が殴ってきた理由も,被告人Aの女友達の給料の受け取りに関係することで,それほど根が深いものではないと,被害者を探し回っている間にほぼ察しがついたことから,被害者と出会う直前のころには,互いに凶器を使った喧嘩までしなければならないことではなく,相手次第によっては喧嘩を避けられるかもしれないとの考えを,一面では持ったことも不自然ではなく,このような事情から,被害者の意図を確かめ,攻撃を止めさせて喧嘩を回避する可能性を探って,Cが前記行動に出たものと解することができる。しかし,それは,制止しても相手が攻撃をしてくる以上,こちらも攻撃するとの意思と矛盾するものではなく,その後の激しい攻撃の状況からも裏付けられるように,当初から抱いていた被害者から攻撃してきたときは攻撃するとの意思は,なお保持していたといえる。

(中略)

したがって,被害者の攻撃は,正当防衛の要件である急迫不正の侵害に当たらず,被告人両名及びCの被害者に対する本件加害行為については,正当防衛及び過剰防衛は成立しないといわねばならない。

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